福山市 「同和地区」児童・生徒を特定する調査
福山市で明らかになった、「同和地区」児童・生徒を特定して学力を調査するという人権侵害の問題について、川崎誠市議の報告を掲載します。
日本共産党福山市議団(村井明美団長ら四人)の調査で、市教委が小中学校校長に「同和地区」の児童・生徒を特定して学力を調査する、「学習の記録表」の提出を求めていたことが明らかになり、党市議団は一月十七日、福万建策教育長にこれを中止するよう申し入れました。
これに対して教育長は「事業の廃止か継続か、材料がなければ内部議論もできないことを理解してほしい」と答えました。
法令上、同和地区、同関係者は存在しない
すでに国は「同和地区」内外の声にもとづき、一九九七年度から五年間の一般対策へ移行するための経過措置を経て、二〇〇二年度からは、一般対策による問題解決という方向へ完全に転換しています。
「解同」(部落解放同盟)追随姿勢の強かった県や県北地域の自治体も同様の方向に転じました。いまや法令上、「同和地区」や「同和地区児童・生徒」という規定も消滅し、いわば歴史用語になりつつあります。
ところが福山市では、国が同和行政を終了したにもかかわらず二〇〇一年度からは、それまでの教師による「地域進出」にかわって「解同」が主催し、「同和地区」児童・生徒が参加する教科学習会に補助金を出す「学力向上地域支援事業」が実施されています。
差別解消に逆行する人権侵害事業
福山市議団の申し入れは以上のような点を指摘したうえ、学力向上の取り組みは「どの子にもわけへだてなく進められ、その条件整備にこそ、教育行政の責務があります」と指摘。「こうした調査は、重大なプライバシー・人権侵害につながるものであり、ただちに中止」することを、また、「学力向上地域支援事業を廃止する」ことを求めました。
県議会でも辻県議がこの問題を追及
福山・沼隈区選出の辻つねお県議も十九日の県議会文教委員会でこの問題を取り上げ、県教委の見解をただしました。
辻県議が「同和地区住民であるという『身分暴き』を教育委員会が率先して行っているようなものだ」と批判し、「本人の了解もなく、学年を明らかにして調査内容を報告させるのはプライバシーの侵害ではないか」と追及したのに対し、指導課長は「本人や保護者の了解は当然必要」と回答しました。
さらに、「国が特別対策を終了して『同和地区』という概念は法令上なくなった」と指摘し、各自治体の特別対策終結に向けた県教委の姿勢をただしたのに対しては、教育部長が「福山市の事業の細かい中身は把握していないので、指導すべき中身があるかどうか、福山市に問い合わせたい」と答えました。
「福山市同和行政基本方針」
なぜ、同市でいまだにこうしたことがやられるのか。福山市自身の方針が問題です。
今日に続く市の方針の基本は、国の特別対策完全終結の一年四カ月前、二〇〇〇年(平成十二年)十一月策定の「福山市同和行政基本方針」(以下、「方針」と略)に示されています。これがどう述べているのかを、以下に紹介します。
・「解決すべき課題も残されている」
「策定の趣旨」はまず、国において「二〇〇二年度よりは一般対策移行によって、同和問題の解決を図っていく方向性が明らかにされるなど、今日大きな転換点を迎えている」、本市においても「劣悪な生活環境の大幅な改善、生活の安定した層の増加、市民の同和問題に関する認識の向上等、多大な成果を上げてきた」と、一応、格差是正の進展は認めたうえ、「依然として存在している差別意識の解消等、今日なお解決すべき課題も残されている」として、「同和地区の実態や諸情勢の変化に適合した新たな方向性を定めていくことが必要になってきている」としています。
・学力「格差は依然として大きい」
この認識に立って具体化された「教育対策」は、一九九四年、「方針」策定六年も前の「市教育実態調査」をもとに「高等学校中途退学率や大学進学率の格差は、県全体との比較において依然として大きい」と分析。「今後、同和地区児童生徒の進路保障のため、既存の枠組みや発想にとらわれず、学力向上と自己実現を図るための実効ある施策を構築する」として「教育三事業」、「子育て講座・教育相談事業」「基礎学力向上研究指定校事業」とともに「学力向上支援事業」の実施を掲げました。
・「地域の主体的活動を支援する」
そして、「学力向上支援事業」については「地域の自主的・主体的な活動に対し支援する」という説明を付していますが、要は、「解同」が求めれば実施するということに行き着くわけで、「解同」言いなりとどこが違うのか、ということになります。
「解同」福山市協の要求書は語る
部落解放同盟福山市協議会(議長 川崎卓志・福山市議)は、国や県が同和行政、同和教育を終結させて以降も、市に対して毎年、「部落解放に関する要求書(統一要求と各支部要求)」を出し続けています。
二〇〇三年度の要求書は、「市は、『福山市同和行政基本方針』に基づき、国の特別措置の有無に関わらず、憲法で保障された基本的人権に関わる課題がある限り、行政の責務として問題解決に努めていくことを明らかにされています」と指摘し、「これまで取り組まれてきた同和行政の成果を損なうことなく新たな人権・同和行政を推進していくことが求められている」としています。
「解同」福山市協から見ると、福山市政というのはくみしやすい存在のようです。「同和」施策の今後を問われた市当局が決まって行うのが「差別がある限り同和行政は続ける」という発言。「方針」がある限り、「解同」はそれをよりどころに「旧身分」にもとづく要求実現をたやすく主張できるという構図です。
6億7000万円の市の「人権・同和」予算
本年度予算で市は、「解同」へ団体補助金九百五十万円を支給。「解放センター」から衣替えされた「人権交流センター」内に、水光熱費以外は無償で「解同」事務所を置かせています。「人権・同和」予算は、いまだに総額で六億七千万円にものぼります。
羽田皓市長は、前市長時代に策定されたこの「方針」を堅持するとの公約を掲げ、日本共産党以外のオール与党議員の支援を受けて、昨年八月に初当選しました。
「一般対策の充実を図る」と言うのなら
一方、「方針」のなかには、「同和」地区内外からの「解同」追随行政への批判に耳を傾けざるを得なくなった側面、「同和」地区の子どもたちへの特別扱いが破綻しつつあることを認めた側面があることも示されています。
教職員を交代で「同和」地区に派遣し、学力向上を目的にやられてきた「地域進出」の「今後の方向」では、「方針」策定の基礎となった二〇〇〇年三月の「福山市同和対策審議会」答申が「現時点では、地域進出は進路保障と学力向上につながりにくくなっている」と指摘したことを受け、「地域進出」は「本来の目的を果たせなくなってきている」と総括。「今後、すべての児童生徒への取り組みに普遍化するため一般対策の充実を図る」としているのがそれです。
であるなら、その道に実際足を踏み出せばいいわけですが、現在実施されている「学力向上支援事業」はそれとは真反対の、「旧身分」を特定して行われる相変わらずの特別扱いです。
障壁を地方自治体が作ってはならない
日本共産党は、一九七〇年代以来三十年近くにわたる特別対策によって「同和」地区内外の格差が基本的になくなってきたこと、客観的な実態として同和行政のいらないような現状に到達したことをふまえ、問題の最終的解決に向けて「同和行政の終結」ということを主張しました。それは、地域社会での自由な社会的交流の進展、連帯・融合の実現は、同和行政という特別対策が続く限り完成には至らないからです。
同和行政という、人であれ地域であれ、対象を特定しないと成立しない特別措置が続く限り、社会的な障壁、問題解決の壁はなくなりません。「人権教育の国連10年」(一九九五年)の採択など国際的流れを利用して「同和」を「人権」に言い替える流れもありますが、これで社会的障壁がなくなるわけではありません。
福山市には、人権侵害の調査と事業の中止、廃止はもとより、その根拠となっている二〇〇六年三月末を期限とした「方針」そのものの中止、廃止が求められます。